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2019年12月の記事

2019年12月29日 (日)

AIを考える(美空ひばりの「あれから」を聴いて)

母は歌が好きだ。一日中ラジオをかけて、歌が流れてくれば、知ってる歌はもちろん、知らない歌でも鼻歌で合わせ始める。ただ好きなだけで、音楽の知識があるわけではない。

先日、某放送局の番組で、AIが合成をした美空ひばりの声で、「あれから」という新曲の演奏が放映された。食事中であったこともあってか母の鼻歌は出なかった。いや、それどころか、「これ、ひばりの声じゃないね」「ああ、これ嫌だ」との声が漏れてきた。私も同感で、聴き心地が悪かった。ところがである、演奏会場の進行役のアナウンサーは泣き崩れ、振り付けCGの作成に関わった歌手の方も感涙し、古くからのひばりファン達も感激の表情を隠さず、ひばりさんの息子さんも(曲にというより時代の変化にという感はあったが)驚きを隠せないようであった。

なぜこのような差が出たのだろうか。おそらくは、「ひばりさんに復活して欲しい」「生の歌声をもう一度聴きたい」と強く思っているようなひばりさんへの思い入れの強い人と、そうでもない人との違いが現れたのだろう。母など後者の方が、思い入れの無い分、客観的に歌を聴けていると思う。確かに、ひばりさんぽい歌い方にはなっているし、声質も似ていた。AIは大したものだと思うし、作成に関わった方々のご苦労は大変なものであったようで頭が下がるが、私が点をつけるなら59点。大学の成績評価の優、良、可、不可でいえば、1点足りずに不可、という判定である。いみじくも、作詞した秋元氏が番組内で言っていた「『技術が凄いですね』だと人の心は打たない」に留まったように思うのである。ひばりさんへの思い入れが強い人たちなど心を打たれた人も少なくないが、少なくても母や私の心は打たなかったからである。ではなぜ母や私の心を打たなかったのか。

私が「あれから」を聴いて真っ先に感じたのは、ひばりさんはこんな歌い方をしない、ということである。番組でAIをどう使ったかを見て合点がいった。歌の合成には4種類の観点、即ち、音程、ビブラート、タイミング、音色をそれぞれAIに分析させ、それらを組み合わせたとのことだ。はじめはピンとこない歌声だったようだが、AIの関わり方の重みを変えてあの歌になったようである。しかし、私には最も大事な観点が欠けているように思える。それは歌詞の意味や言葉と、歌い方の関係のAI分析だ。どこにビブラートをかけるか、どこで楽譜の音符より音を伸ばすか縮めるか、微妙にフラットさせるかなどは、旋律よりも、歌詞からの影響の方が大きいと思うのだ。歌詞の意味までAIに分析させるには時間や学習させるデータの収集、選定など、難しい問題も多いだろうから簡単ではなかろうが、人間が歌を歌うとき、歌詞の意味を考えないで歌うプロ歌手は殆どいないだろう。この観点が抜けては、万人の心打つ歌い方にはなるまい。

しかし、ここに、AIの限界と可能性の両方をみた気がする。不十分なデータしか与えなかったり、分析の観点が適当でなければいい結果は得られないし、逆にこれらを揃えれば、いくらでもいいものができるだろうということだ。「人間がAIに使われることになる」と言う方もいるが、そうではなかろう。AIに何をさせるかは、やはり人間が考えて指示するのだから。是非、この観点もAIに学習、分析させたAIひばりの歌は聴いてみたいものだ。

気象の世界でも、将来はAIが人間に変わって天気予報をすることになるだろう。今は力学的手法でスーパーコンピュータが数値予報という手法で予想値を出力し、更に統計的手法を用いたガイダンスという予報支援資料が出力されて、それを気象予報士等が解釈、修正して天気予報が出されているが、AIが導入されればガイダンスは大幅に変更、高性能化し、場合によっては数値予報自体が取って代わられるかも知れない。それには、過去の観測値をいかに学習させるかが大事になるが、歌とは違い、歌詞の意味を考えるような人間の感情等が入る余地がない分、AIは大活躍するに違いない。世の気象予報士は押しなべて失業するかも知れない。

あと2日で大晦日。AIひばりの「あれから」も紅白で流れるそうだ。私はここ何年も紅白を見ていないので「あれから」を聴くことはないだろうが、興味のある方は是非聴いてみていただきたい。果たしてあなたは心打たれるだろうか、それとも・・・。

 

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