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2017年10月31日 (火)

水蒸気のはなし(番外編)・空が白っぽいのは水蒸気のせいか?

この番外編は少し長い。
読みながら多少考えることも必要。
多少学問的な難しい部分もある。
是非、時間のあるときに読んで欲しい。
特に、気象に携わる人、
ある程度知識のある人に読んでいただいて、
ご意見を頂戴したいと思っている。


<空が白っぽいのは水蒸気のせいか?>

晴れているのに視程(見通し距離)が悪い理由や、
薄雲が出ているわけではないのに
空が白っぽいことの理由を、
水蒸気の多さや湿度が高さで説明しているのをよく見かけるが、
私は、かねてからこれに疑問を感じている。
(湿度は正式名称「相対湿度」だが、本稿では「湿度」と略す。)

最初にわかりやすい例を挙げよう。
雨上がりの空は澄んでいることが多い
ある程度長い時間降った雨の雨上がり直後なら、
結構湿度は高いだろう。
ということは、湿度が高いからといって
視程が悪いとは限らないことになる。

この反例により、論理学的に
「水蒸気が多ければ視程が悪い」
という命題は偽(ぎ)であることが証明された。

しかし、これで、
水蒸気が多いことが視程が悪いことと
無関係であることの証明にはならない。
実際、
視程が悪い時は湿度が高いことが多いことは
私も否定しない。


<なぜ水蒸気量の多さで説明されるのか1>

まず、なぜこのような説明がされるのかを考えてみた。

降水現象がない状況で視程が悪いのは、
霧やもやによることが多い。
これらの現象は、
空中に微小水滴が浮遊していることにより起こる。
そして、通常、湿度が非常に高いときにしか起きない。
だから、霧やもやは湿度が高いことが原因といえる。

しかし、雨上がりの例でもわかるとおり、
どんなに湿度が高くても凝結が起こらない限り、
言い換えれば、
微小水滴が空中に浮いている状態でなければ
霧やもやとはならない。

湿度が高いことは、霧やもやが起こることの
必要条件ではあるが十分条件ではない。


<なぜ水蒸気量の多さで説明されるのか2>

もうひとつの原因に、
水蒸気に対する誤解があるように思う。

それは、上記のように、
水蒸気が多い時に視程が悪くなりやすい
という事実があるため、
水蒸気(気体)自体が視程を悪くするとの誤解
生まれたのではないかということだ。

水蒸気は気体であり、窒素や酸素同様透明で、
視程には直接影響しない。
水蒸気が凝結して、
微小水滴(液体)となって初めて視程を悪くするのだが、
この微小水滴を水蒸気と呼んでしまっている誤りもありそうだ。


<空が青かったり白っぽかったりするのはなぜか>

これを科学的に理解するためには、
光の散乱について知らなければならない。
詳細な説明は省くが、
光がレイリー散乱を起こすことで空は青くなり、
ミー散乱が起きると空は白っぽくなる。
雲や霧や雪が白いのはミー散乱が原因だ。

太陽光(可視光線)のレイリー散乱は、
大気分子など非常に小さな粒子が起こす散乱で、
青い色が強く散乱される。
これが空が青い理由だ。

一方、ミー散乱は、
光の波長と同じ程度の半径を持つ粒子が起こす散乱で、
0.1~1μm(μmは、mmの1/1000)程度のオーダーの
粒子が起こす散乱で、
特に強く散乱される波長がないため、
全ての波長の光(色)が混ざり、白色光となる。

よって、大気中にミー散乱を起こす大きさの粒子が多くなると、
空は白っぽくなる
わけだ。

水蒸気(H2Oの気体)分子の大きさは、
酸素分子や窒素分子と大差なく、
ミー散乱を起こす大きさではないので、
水蒸気自体は空を白っぽくする原因物質ではない
このことがあるので、
『空が白っぽいのは水蒸気が多いから』という説明を
私は疑問に思っている
のだ。


<納得できるひとつの説明>

水蒸気と視程の関係について調べているとき、
なるほど、と思うひとつの説明に出会った。

ミー散乱を起こすのには、少し小さい粒子
(塵や埃や黄砂等、以下、大きさによらずエーロゾルと表記)
が大気中にあると、
水蒸気とくっつくことによって粒子のサイズが大きくなり
ミー散乱を起こすようになるため、
視程が悪く、或いは空が白っぽくなるという説明だ。

なるほど納得
ある説明には事例も載っており、
煙草の煙の粒子は非常に小さく、
初めは紫色(レイリー散乱)だが、
空中を立ち昇る間に水蒸気と一体化して大きくなり、
白い色(ミー散乱)に変わるというものだ。
事実をうまく説明し、説得力がある。
おそらく正しいだろう。


<それでも水蒸気は原因物質ではない>

だが、ちょっと待った。
危うくひっかかるところだった。
これって、
煙草の煙(エーロゾル)があってこその白い煙であって、
煙草の煙がなければ、どんなに水蒸気があっても
そこの空気は白くないではないか。

簡単な思考実験をしよう。
今、4種類の気体を考える。

①エーロゾルも水蒸気も多い気体
②エーロゾルは多いが水蒸気は少ない気体
③エーロゾルは少ないが水蒸気が多い気体
④エーロゾルも水蒸気も少ない気体

これらのうち、
透明度が悪い(白っぽい)気体はどれだろうか。
①は明らかに白っぽいが、
④は透明度が高いだろう。
問題は②と③だ。

③は、水蒸気自体が白っぽさの原因でない限り、
空が白っぽくなる理由がない。
少ないエーロゾルに水蒸気がくっついて多少白っぽくなっても、
エーロゾルの量以上に空を白っぽくする原因物質は増えない。
よって、③は白っぽいとは言いにくい。

②はエーロゾルの大きさによって多少話が変わるが、
ミー散乱を起こす程度の大きさのエーロゾルが多ければ
水蒸気が少なくても(或いは全くなくても)、
エーロゾル自体がミー散乱を起こすため、
視程が悪くなったり、空が白っぽくなったりする。
視程が悪い場合、大気現象としては煙霧に当たる。


<私の結論>

②③を考察すれば、
視程を悪くしたり、空を白くする主たる原因物質は、
水蒸気ではなくエーロゾル
である。

水蒸気は、煙草の例でもわかるとおり、
ミー散乱を起こさないような小さなエーロゾルを、
ミー散乱を起こすような大きさに変化させたり、
もともとミー散乱を起こすようなエーロゾルを更に大きくし、
ミー散乱の度合いを強くる働きは認められるので、
それ自体は原因物質ではないが、
空をより白っぽくしたり、
視程の悪化を助長する環境要因ではある。


私は、空が白っぽい原因を聞かれたら、
必ず「空気中に(黄砂やPM2.5等の)塵や埃が多いから」と
答えることにしている。
だって、主たる原因であるエーロゾル抜きに、
環境要因だけで説明するのはおかしいではないか。
(それと、一般人への説明には滅多に加えないが、
 エーロゾルの拡散を抑える逆転相等、
 安定層の存在等も必要条件ではないかと思っている。
 風の弱さも関係するかも知れない。
 考えれば考えるほど難しい。)

空が白っぽいとき、
微小水滴ができているならそれは薄い雲である。
上記は、
空の白さの原因が明らかに雲ではないときの答え方である。
もちろん、雲や霧、もや等、原因物質が微小水滴の場合は
水蒸気が凝結して・・・」と答えている。


この考察には、賛同にしろ反論にしろ、
ご意見を沢山いただきたい
と思っている。

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